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ゴースト

もう今までさんざん消えたであろう幽霊が

またいなくなろうとしている

申し訳なさそうな、どこにもいけなさそうな顔をして

それでも薄笑いを浮かべている

もう二度とここには来ないでほしい、どうか遠い土地で幸せに暮らしてほしい

誰かに言いたいことがあったら伝えてあげるから

何か欲しいものがあったら持ってきてあげるから、と伝えた


幽霊がいわく、幽霊には

「もう」も「二度と」もない

「ここ」も「あそこ」もない

「来る」も「行く」もなければ

「遠い」も「近い」も同じだし

「土地」も「建物」もわからない

「幸せ」も「不幸せ」もありえない

「暮らし」とはいったいなんだろうか

「誰か」とはいったい誰だろうか

「言いたいこと」と「言いたくないこと」

「欲しいもの」と「欲しくないもの」

「持ってくるもの」と「持ってこないもの」

どうせならすべて持ってきてほしい

ならべてあるのをながめてみたいから

どうか俺のためにしっかり働いてみてくれ


私は六日働いてから一日休んだ

女のあばら骨を折った

ブヨの群れを放ち

鯨に飲み込ませた

両足に油をかけてもらった

何日か眠ってから起き上がり

そしてそっと旅に出た


次の街ではまた

幽霊が待っていた

申し訳なさそうな、どこにもいけなさそうな顔をして

それでも薄笑いを浮かべながら

すまないけれど もう一度

もう一度だけ最初からやりなおしてほしい

と言った

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