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逃げ水


ひとりふたり、と指折り数えてすぐに気がついた

もう片手しか残っていない

だからこの場所に置いていかれたのだ

ここはバス停のような場所

埃まみれになったと思ったらずぶ濡れになる場所

誰も知らないはずなのに誰もが通り過ぎる場所

雨上がりの水たまりさえ私から逃げてゆく

月が右に左に揺れている

ひとりふたり 一人で太り 日照りのふり 光陰り

残忍なさんにん 散々な目にあわないように ずっと続けてゆく

古タイヤでサンダルを作り

それを糧に暮らしている子供が

私を物欲しげに眺めている

私は残った片手を

左手だか右手だか分からないそれを

振り回して子供を追い払おうとする

たちまち蠅が集まってきて

私の顔色を変える

ところで私は一体

何色のシャツを着ているのだろうか

ひとりふたり、と指折り数えてすぐに気がついた

私はそれより多い数を知らなかった

だからもう片手しか残してもらえなかった

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