石の床をしゅろの箒で手際よく掃く男が廊下にいて
その音をさっきから心地よく聞いている
それを聞くためだけに
部屋のドアを朝は開けておくことにした
幽霊の部隊が行進しているのだが
足が無いから動けずに
いつまでもどこにも行けずにいて
それでもどの幽霊も微笑んでいる
もうすぐ家に帰れるから
もうすぐ体に色が戻るから
もうすぐ、もうすぐ、と思う幽霊の部隊は
今では途方もなく増えてしまい
ジャングルを覆うほどだ
その足音がこの部屋まで
響いて聞こえる気がして
もう一度よく眠れてしまう
掃除は終わり
掃除夫はマネージャーにコインを3枚もらい
ジャングルの奥へと帰ってゆく
痩せた掃除夫の裸足が石の床を歩いて消えてゆく
その足音が終わりかけの雨音に似て聞こえると
マネージャーはいつもながら思い
掃除夫からごまかしたコインの
残りの2枚をポケットにそっとしまう
その2枚のコインがあれば
掃除夫は上等な靴が買える
足がよけいに痛んでしまう新品の革靴と
効き目の怪しい胃薬が買える
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