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思い出

  • 執筆者の写真: Hiroshe Haseba
    Hiroshe Haseba
  • 2018年10月24日
  • 読了時間: 1分

ああ見たことがある 会ったことがある

あの男なら昔からよく知っている

臆病な黒犬を橋の下で飼っていた

河にコインをばらまいて笑っていた

タイヤというタイヤに穴を開けてまわった

電車を走って追いかけた

行列に石を投げて怒鳴った

眠る時も目を閉じなかった


ああ知っている よく知っている

出会ったこともないのに見覚えがある

ああ行ったことがある 見たことがある

あの場所なら昔からよく知っている

ペンキの缶を投げつけられたドア

ガラス窓はすべて割れ壁は蹴破られ

どこもかしこも黴くさく そして火薬くさく

忍び込んだ恋人たちは消えてゆき

そして裏口から猫となり逃げてゆく

お前が生まれた場所 そして今もずっと住んでいる場所


ああ知っている よく知っている

お前のことをまったく知らないぐらい

よく知っている

ああそのとおり お前の言うとおり

時計が壊れたというならそのとおり

腹の具合が悪かったならそのとおり

もうパンを買う金もないならそのとおり

紙を燃やしてしまったならしかたない

シャツが濡れているなら雨だろう

もう二度と嘘は言わないというのは本当だろう

ああお前はまったく笑わない

こんなにゆかいな毎日なのに

もうずいぶん長い間お前のことを

思い出さずにいる

 
 
 

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