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五十人

顎を出したあいつのありふれた歩き方 明日まで続くはずの雨降りを青い顔をしてあきらめてアーメン

いかがわしいいびつな椅子を嫌がり いんちきなインクなどいらないといらついている

うろつきながらも噂して うつむきがちに後ろを向いて 浮き輪で海に浮かんでいる嘘を疑う

絵をえがこう えもいわれぬ絵を 駅に向かう人々の絵を 絵空事ばかりの絵を

沖までずっと泳ぎながら おしゃべりを終わらせて わざと重い思いをしながら落ちていく

かぼそく鳴くカラス 壁のカレンダーの海岸線 カモメの隠された悲しみ

聴こえないふり きなくさい危険なキス 汚いキリストの着ぐるみを着たままで消える

クリスマスに腐った靴を口にくわえ くねくねと走る車に乗って くるみのクッキーを食らう苦労話

景気の悪い喧嘩を毛だらけの景色にけとばされた 怪我した消しゴムの煙たい気配がする 

コーカサスのコロシアムで殺されて コマ切れにされた声が呼吸困難になったら 

坂道でサーカスとサスペンダーを探そう サニーレタスとサーディンのサラダに幸多かれ!

シロップに沈んでゆくシンフォニー 尻つぼみの染みだらけの下着 信じられないほど静かな失敗

好きなステッキを捨てて 素通りして進んで すみずみまで捨て身のままで

背伸びしても咳き込んでいた 世界がせまってきても背中を向けていた 世話をしたせむし男に折檻された

そろそろ外に出よう 染められたソプラノな空を想像して 素知らぬ顔をしてそわそわしないで

食べもしない 戦いもしない 尋ねることも頼むこともなく 退屈なタンゴをためこんでいた

血が流れ チョコレートとチーズのありかの地図がちぎられ 血まみれの沈没船がちりばめられている

冷たいツンドラにつまづいて 罪深い積み木を机の上に積み上げて 疲れたらつきあい程度に杖をついて 

照り返すテールランプ テントの中の手紙 天井裏で手品 敵同士で手拍子 手ぶらなテンガロンハット

扉の奥のトイレ トレイに乗せられたトリック とんがった時計の隣に閉じ込められた溶けかけの鳥かご

泣き出した名前 なげやりな涙 なくなった鍋の中身 ないがしろにされてなすすべもないなめくじの亡骸

にせものの虹と 苦笑いの人参が ニンニクの匂いが 憎らしいニシンをにらみつけている 

沼で濡れて脱ぎ捨てた 塗りつぶされた布きれを盗んだ 抜き打ちの塗り絵に縫い付けられた

ネブラスカの猫が眠る ねぼけたネオンがネスカフェを飲む 寝相の悪いネズミの寝巻がねじれてる

ノックして覗き込んで 飲み込んで逃した 野原で呑気に飲んだくれて のけぞって伸びた

八月の話の始めにはじかれたハレンチなハンカチが 恥ずかしくて運べない蜂の巣を吐き出した

ひざまずいたヒロインの肘の秘密 ひからびたひきがえるの引越しを引き受けた

増えたのは不機嫌さに震える冬 不幸で不明瞭なプライドをふんづけるふりをした

へこんでもへらない へっぴりごしの返事をしたら ヘルニアの壁画がへそにへばりついている 

埃をかぶったほうき星に 放っておかれた幌馬車が放浪の旅を終えて ほらご覧よと放り投げた星屑

間違ってばかり 待ち望んでばかり まぬけたちがまばたきをして まっすぐにマーチをするばかり

道の上でミンチにされて見つからないミツバチが 水入らずで見ている未解決なミステリー

無理やり向こう側を向いて無視をしながらも 昔の娘の無邪気な睦言を蒸し返す

目障りなメキシコの国境で 目詰まりしているメロディが 明治チョコレートをめくる

もう遅い もう終わった でも もしもできればもう一度だけ 元に戻せるなら 持ち上げてみよう

やけになってやりなおしてやっぱりやめて 八つ裂きにされて山に捨てられて 野生に戻る痩せた男

ゆきづまって 許されて 雪の日の夢を見て ゆっくりとゆりかごに揺られながら 行方知らずになる 

夜になって 酔いが回って よじれて よりかかって よつんばいになって よみがえる夜に

ラストチャンスの乱暴なラッパがラジオから鳴り響き ラッキーなライオンに拉致されても

利口者でも理解できないリストには リンゴだけがリクエストした

ルワンダ産ルッコラのルールも無視されて 留守番のルサンチマンがるつぼで溶かされた

レモンをかじる練習には れっきとした歴史があり 恋愛しらずのレ・ミゼラブルが並ぶ

ろくでもない路上のロマンが露呈された 路頭に迷った老人が老眼鏡を探すロマンス

わがままな我々は ワインのボトルが割れてしまったことを わけがわからなくなったことを わめいた 

訳ありの若い女を忘れたことを ワルツを忘れた 忘れたワルツをわからずにいた

そして今でも ワルツをくりかえしながら 四方を壁に囲まれながらも 私たちは確かに 

ここで踊っている

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無効になった彼方へ

市街戦か紫外線か、選べ、と言われる それぞれで僕が受けるであろう影響を駅のホームで考える 死因としては(ああ静かな場面だ) 市街戦なら流れ弾、紫外線なら皮膚癌 格好としては(あの鳥が鳴きながら滑り降りてゆく) 市街戦ならカーキのジャケット、紫外線なら海水パンツ 運命としては(豪華な料理に賞賛の声が上がり、レストランの床が抜ける) 市街戦なら捕虜、紫外線なら疲労 つまり僕は流れ弾の皮膚癌を避けるがた

日々の肉に

血の味がする、あいつが言うわけさ やつは自分が住んでいる十階の部屋から 夜中に階段の手すりを叩きながら 上ったり下りたりするのが趣味なんだよ そりゃあやつの手のひらは鉄錆くさいだろうよ 血の味がするというけれど あいつが持ってきた肉まん、冷えて堅くなって縮んだそれは むしろ皮の甘い味が目立っている安物だ 血の味はお前の汚い手のせいだ、と大声でなじると 一緒にぐちゃっとした肉まんの食いかけが口から飛

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