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落葉

  • 執筆者の写真: Hiroshe Haseba
    Hiroshe Haseba
  • 2018年11月11日
  • 読了時間: 1分

高所恐怖症を治さなくても高い場所に行かなければいいだけだ

主治医にそう言われた老人は今日も十二階の自分の部屋に階段を上って帰る

エレベータもない古い雑居ビルの最上階

六階の踊り場で老人の顔は緑に変わりやがて黄色になりそして焦げ茶に


十二階のひとつ上はもう屋上だ

ストライプの海水パンツを履いた太った男が汗だくで金網にへばりついている

もう数週間前からそこで動かずにいる

太った男の青白い体は

ついに緑に変わりやがて黄色になりそして焦げ茶に


鳥が飛んでゆく

黒い大きな鳥が金網のまわりを大きく円を描いて飛ぶ

金網にへばりついた太った男がようやくうまそうな甘い匂いを出し始めた

興奮して羽ばたいている黒い大きな鳥の羽毛が

やがて緑に変わりやがて黄色になりそして焦げ茶に


雨が降る

道が濡れて緑に変わりやがて黄色になりそして焦げ茶に


プラスチック製のクリスマスツリー

夏が来る前に不燃ゴミとなる

もう子供たちはいなくなった

そう告げている電報用紙は手の中で緑、黄色、そして焦げ茶に

火の中で緑、黄色、そして焦げ茶に


 
 
 

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