top of page
検索

晩冬

あんなに遠くに連れていかれてしまったから

もうしばらくは戻れないだろう

戻ってきたとしてもその時まで

俺たちがここにいるかどうか分からない

順番に名前を呼ばれている

聞き覚えのない名前ばかり

この部屋の寒さに耐えられずに

つい我慢できずに返事をしてしまえば

たちまちこの場所から連れ出される

あの男はあんなに遠くに連れていかれてしまった

小さな窓に取りすがる俺たちが見えるのは

あの河

名前を偽った男が

あの河の向こう岸まで泳がされている

また誰かの名前を呼ぶ声が

拡声器から流れてくる

26番、スンビロー

27番、ビロンカーデ

28番、デマサヌキリ

29番、キリサノドレ

30番、ドレムダレツク

31番、机の下で

32番、屋根の上で

33番、橋の上で

たちまちいくつもの手が挙がり

俺たちは叫び出す

俺だ、俺が橋の上でだ、それが俺の名前だ

震えてかすれる声を絞り出し

橋の上で 橋の上で

どうか俺たちをいつの日か橋の上で

最新記事

すべて表示

無効になった彼方へ

市街戦か紫外線か、選べ、と言われる それぞれで僕が受けるであろう影響を駅のホームで考える 死因としては(ああ静かな場面だ) 市街戦なら流れ弾、紫外線なら皮膚癌 格好としては(あの鳥が鳴きながら滑り降りてゆく) 市街戦ならカーキのジャケット、紫外線なら海水パンツ...

日々の肉に

血の味がする、あいつが言うわけさ やつは自分が住んでいる十階の部屋から 夜中に階段の手すりを叩きながら 上ったり下りたりするのが趣味なんだよ そりゃあやつの手のひらは鉄錆くさいだろうよ 血の味がするというけれど あいつが持ってきた肉まん、冷えて堅くなって縮んだそれは...

Comments


WRITINGS & NEWS 

bottom of page