坂道が多い街で買い物をする
別に今日買わなくてもよいものを
寒くなり始めた時は
早足で駅に向かう その仕事には向かない
良い天気だ 洗濯と散歩には
鼻の中が乾いてしかたがない
眺めるものといえば歩道橋の上から
この駅を通り過ぎる特急列車と
電線の結び目となった鳩
この街から下りてゆく 長い坂道を
またいつか向こう側から 今度は
自転車で 目をつぶりながら
肉を揚げる匂いがしたら
もう帰ってきてもよいと
子供に話している女は
今からひとりで
街を出ようとしている
子供 泣くことも笑うこともない子供
炊飯器と鍋の中身
ポケットの上から触ってみる鍵
しばらくは もうしばらくは
この街にいられるはず
子供は急ぐ 振り向くことを忘れる
今はまだ空腹ではないが
揚げた肉なら食べてもよい
子供が駆け足で歩道橋を上ってくる
線路の向こう側の街へ帰る
帰るつもりも
帰らないつもりもない
それはただの移動
今のところはただのAとただのB
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