もうここには二度と来ない
降らない雨はない
濡れた地面はいつものように
昼までにはまたからからになるのだろう
空を見上げて首を振り
もう二度とここには来ないと言っていた
給油係だった男の顔を
思い浮かべているウェイトレス
コーヒーは冷めてゆき
アップルパイは乾いてゆく
雨はいつまでも止まない
止んだとしても必ずまた降ってくる
給油係の男は思う
次の雨の日を思う
ああこれじゃ今日の仕事もずぶ濡れだと
ダイナーでコーヒーとアップルパイを注文してから
それでも微笑んでみせた雨の日のことを
ウェイトレスは彼を横目で眺め続けた
そのうち黒目がなくなって
涙が止まらなくなるまで
白い眼のウェイトレスには
もう誰もチップを残さない
ウェイトレスは毎朝鏡に向かい
暗闇の中を手探りで髪を整えてから
見えない自分に笑ってみせてから
愛用のサングラスを探す
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